本書執筆に関する反省


○ 反省ー1:
当初は『謎解き 若き漱石の秘恋』などと云う大それた事を考えていたわけではなく、時折散歩する本郷界隈に関するメモをまとめ、WEBに載せようと意図しておりました。それがいつのまにか、漱石の作品中の謎解きにはまり、まったく別の書き物として、全体ができ上がりました。こうした製作の経緯が欠陥として一番表れている箇所は、本書全体の構成部分です。初稿タイトルが「漱石、百年の秘恋」で、内容が謎解きならば、それに対応する最適な構成があったはずです。本書では、そうした作業を最初に行うという手順がなかった故に、読者にとっては、あまり面白みを感じない構成となっている感を否めません。そこで、

    最初に全内容をまとめて、それにふさわしい全体の構成を決める

という作業が、執筆前の第一に重要な作業だったと反省しています。但し、本書の場合には、執筆と平行して謎解きが進められたので、内容的に相当の分量の目処がついた時点で、再構成の作業を行うべきであったと思います。

○ 反省ー2:
筆者の本職は理科系の研究者です。それまで、日本語の長文の作品を書くという経験は全くありませんでした。そんな事が理由になるかどうか、文章のスタイルに注意を払うという事が念頭に全くなかったのです。要するに、文章を書く訓練を受けてはいなかった訳です。研究内容を英文で書く場合には、内容を間違いなく伝達するという目的達成の為に、短文を多用するという方法を使っておりました。それは拙い英語力故に他に選択肢が無いという結果かもしれませんが、一つのスタイルではありました。それに比較すると慣れ親しんでいると錯覚している日本語故に、文章のスタイルに注意すべしという観点を忘れておりました。注意をするかしないかで、結果に大きな差が生まれると思います。従って、

    最初から文章のスタイルに注意して書き進める

事は、非常に重要であったと反省しています。

○ 反省ー3:テフで原稿を書くという点について
理科系の著作物の場合、TEX(テフ)というソフトを使う場合があります。もともとは、科学論文を綺麗に一定のスタイルで書く為に、外国の研究者が開発したソフトです。テフに基づいたテンプレート(書式)をプロシーディング(雑誌論文)執筆用に配付している学会が、世界には相当あるという現状です。このテフを日本語用に拡張したソフトが作られており(ほとんどはfreeです)、理科系の本をまるごとテフを使って出版する事も多くなっています。但し、文系の縦書きの本の場合には、テフは広くは使われていないようです。テフの特徴は、適当なコマンドを本文中に埋め込む事により、目次と索引作成、出版用の組み版まで行ってしまう総合的なソフトである点にあると思います。そうした意味では、本の出版過程の詳細を知らない初心者には、出版の規格に適いそうな体裁が自分一人の努力により出来てしまうので、かなり魅力的に見えます。夫れ故、少しテフ使用の経験があった小生はテフで原稿を書き始めました。ワープロの替わりにテフを用いた事に関して、結果的に良かったかどうか、まだ結論を出すに至っていないと感じています。次の三つの理由が思い浮かびます。

1. 本書の場合には、最終原稿はテキストデータをもとに、ワードを経て、再構築されています。その場合、縦組みのテフ出力(dvi)からテキストデータを作ることがそんなに簡単ではありませんでした。
2. 本書では、初稿から最終稿に向けて大幅な修正作業が行われました。テフを使うと、目次・参照番号・索引等が自動生成されますので、これは非常に便利であったと思います。
3. 執筆途中では、テフの出力をHTMLに変換して、推敲に利用しました。こうすると、ジャンプ機能が活用できて便利でした。