『謎解き 若き漱石の秘恋』出版に到るまでの道
拙著『謎解き 若き漱石の秘恋』は2008年4月にアーカイブス出版社から出版されました。ここまでお世話になった皆様には厚く御礼申し上げます。「漱石の秘恋」の謎掛けの一つのキーワードは「百年」という年月です。漱石自身が設定した「百年の恋」の始まりは文化五年の辰年の1808年、「百年の恋」のトンネルを抜けたのが明治41年の1908年、その漱石が小説中に仕掛けた謎の解読を本書により公表できたのが、ちょうど100年後の2008年となったのですから、不思議な因縁を感じてしまいます。
ところで、筆者にとって初めての経験という事もあり、出版に至るまでには様々な試行錯誤を行っております。何かの参考になればと考えて、それらの錯誤の概略を記録して残したいと考えました。
- 本書執筆に関する反省
初稿がほぼ完成した段階で、信頼できる友人から出版に関する何らか情報を得たいと考えました。
- 相談ー1 2006年9月8日 友人への出版一般に関する相談
思案をあぐねているうちに、実に大それた事を思いつきました。これは当時、NHKの朝ドラで有名作家の自伝を放送していた影響かとも思います。あのような大作家でさえ、駆け出しの頃にはさんざん投稿して落選の悲哀を味わっているではないか。しかもきちんと勉強している。それに較べて私はどうか。これまでは理系の仕事一筋である。若いころ多少の文学は読んだが、長い文章など書いた事さえない。勉強した事もない。ましてや、いまだに一度も投稿した事さえない。
でもしかしである。勝手に投稿すれば良いのだ。世の中には色々な文学賞がある。そこに投稿して賞をもらえば、どこかで出版してくれるかもしれない。数打てばどうにかなるかもしれない。
囲碁の言葉で言えば、こういう虫の良い考え方を勝手読みというのである。自分に都合の良い方向だけを考えて、相手がある事が視界に入らないのである。 - 無謀な試みー1:大宅ノンフィクション賞への投稿
大きな賞に投稿はしたけれど、夫れは夫れ、正直に言えばまともに期待をしていたわけではない。ある日、ネットで検索していると、雑誌「AandB」に辿りついた。この雑誌は月刊誌であり、内容的には学会誌に近いものであろう。大学院学生等の論文がしばしば採用されているようである。
そう云えば、大昔何冊か興味がある特集号を買った記憶がある。それで何を勘違いしたのか、『謎解き 若き漱石の秘恋』の中で解読した漱石の小説中に組み込まれた謎解き結果をまとめて投稿してみようと考えたのである。学会誌に、小学生が投稿するようなものであろう。噫。 - 無謀な試みー2:「AandB」誌への投稿
さて、本原稿がテフを使って書かれている事を既に「反省」の所で述べた。テフは組み版までを原則としては行えるソフトである。私の場合、A4横書き、A4縦一段組、A4縦二段組、A5縦一段組(岩波漱石全集と同じ配置)、A5縦二段組、等の出力が得られるようになっている。dvi出力では、原稿の推敲等の作業がやりにくいので、別途htmlバージョンも作り、校正用に利用している。このテフの特性を活かして出版までこぎ着ける事が出来ないかという試行錯誤を行った。相談相手の出版社に懇切丁寧に応対していただけた御陰で、相当の目処がついた。部数が少なくとも、とにかく格安に自費出版したいという場合には、この方法が良い場合が有り得よう。
ネットでテフを使った出版を調べると、複数の有力な出版社が目にとまる。その中で、出版の使命とか理念とか感心するプレゼンテーションを行っている出版社を選び、この場合は最初に電話で問い合わせを行った。それ以後はメイルでのやりとりとなった。以下はその記録の抜粋である。 - テフ利用出版の試み
この時期、少し忙しく他の仕事に時間をとられる状況になった事、及び無謀な投稿結果待ちの時期という事もあって、『謎解き 若き漱石の秘恋』の出版に関する努力は休業中となる。原稿を少し修正したいと考えた事もある。いくつかの確認作業が残っていた事もある。そんな事が続いて、2007年の5月になった。そろそろ文芸社に行こうかなどと思っていると、新聞に自費出版関連のトラブルの訴訟記事が出る。出ばなをくじかれた気がして、しばらく延期とする。そんな折り、2007年6月18日の日経夕刊の「企画のたまご屋さん」なる紹介記事が目にとまる。記事の内容は充分に興味をかき立てられるものである。すぐにネットで検索して「企画のたまご屋さん」を訪問した。
2007年6月18日の日経記事の一部
内容を読んでみると、多少の書類を準備しなければいけないが、さほどの分量ではない。無料で何百もの出版社に配信してくれるとは有り難い事である。初めて「企画のたまご屋さん」に企画を持ち込む方の為に書き添えておけば、最初に必要な書類等は、全てメイルの中に織り込んで送信するという方式を使っている。従って、ワード等を使って、体裁に注意を払って必要な書類を作る作業は無用である。これは、企画を送信する作業を途中まで行って中止するなどすれば、簡単にわかる事であるが、そうした知識がないと、余計な手間ひまをかけてワードファイルを作るなどしてしまう事にもなる。
私の企画を持ち込み、その後の往復メイルのやりとりから感じた点を率直に書けば、さすがに担当者はプロであるという事だ。素人の私の弱点を適確に判断して、修正してくれる。彼が私の作品を書き直せば、相当に読みやすく世間に受け入れられ易い原稿になるだろう。
「企画のたまご屋さん」との企画書配信に至るまでの経緯を報告しよう。 - たまご企画書配信まで
さて、配信された私の企画書を読んでの反応は如何と思っていると、即座に、複数の出版社から問い合わせが来たとのメイルを「企画のたまご屋さん」からいただいた。有り難いことだ。細かい経緯は省略するが、最終的には配信からちょうど一ヶ月後に出版社との打ち合わせを行う事になった。その後の進行日程を報告しましょう。
- 出版に向けて
まずは本書の原稿執筆に関して反省している点を、お恥ずかしい話ですがまとめておきます。