漱石が見た風景ーー帝大正門からの眺め

○ 『三四郎』の中で漱石は次のように書く。

    翌日は正八時に学校へ行つた。正門を這入ると、取突の大通りの左右に植ゑてある銀杏の並木が眼に付いた。銀杏が向ふの方で尽きるあたりから、だらだら坂に下がつて、正門の際に立つた三四郎から見ると、坂の向ふにある理科大学は二階の一部しか出てゐない。其屋根の後ろに朝日を受けた上野の森が遠く輝いてゐる。日は正面にある。三四郎は此奥行のある景色を愉快に感じた。」
    漱石全集第5卷『三四郎』p.309

安田講堂(1925年竣工)がない時の風景はこうだったのかとわかる。本郷通りはほぼ南北の方向なので、そこから直角に正門へ這入ると東向きである。
明治37年に有名な写真家の小川一真が『東京帝国大学』という写真集を出している。その中に、帝国大学の正門付近から正面を見据えて撮影した写真がある。

『東京帝国大学』小川一真(明治37年)より。上写真の右手建物は、法文科大学、左は理科大学動物学及地質学教室である。中央の道の突き当たりに、理科大学の二階が確かに見える。

(本図は国会図書館のホームページ画面であり、複製する場合には国立国会図書館の許諾が必要です)


同写真集より当時の帝大構内の建物配置図を示す。

(本図は国会図書館のホームページ画面であり、複製する場合には国立国会図書館の許諾が必要です)

現在(2007年)の同じ正門付近からの風景 ↓


安田講堂付近 ↑

今では、安田講堂に加えて、理学部の巨大な建物が二重に遠景を遮っているのは、遺憾である。